和歌山高専が出した新たな知見
和歌山工業高等専門学校(和歌山高専)は、コウモリダコ(Vampyroteuthis infernalis)の全ゲノム配列を解読し、世界で初めてその成果をあげました。この研究は、名だたる大学や研究機関との共同で行われ、深海生物の進化やゲノム多様性に新たな光を当てています。
コウモリダコのゲノムは何が特別か?
今回解読されたコウモリダコのゲノムは約12ギガ塩基対(Gbp)という巨大なサイズを持ち、これまで知られている動物の中でも3番目に大きいものです。特に興味深いのは、このゲノムが長鎖散在反復配列(LINE)という自己増幅機能を持つ転移因子の増加によって巨大化している点です。これにより、コウモリダコがタコよりもイカ類に似た地位を保ちつつ、その進化の過程における重要な証拠となると考えられています。
研究の背景と実施経緯
コウモリダコは中生代に繁栄したとされる古代のタコの系統の生き残りで、現在は主に深海に生息しています。研究は、和歌山高専のスティアマルガ・デフィン准教授を中心に行われ、サンプルは日本近海で得られた新鮮なコウモリダコを用いました。特に、DNAシーケンス解析は国立遺伝学研究所の支援を受けて行われました。
ゲノム解析から明らかになったこと
研究の結果、コウモリダコのゲノムの特徴からは、タコとイカの共通祖先がイカに近い形態であったことが示唆されています。ゲノム解析により、コウモリダコはタコに分類される一方で、より古い遺伝的特徴を持つことが明らかになりました。また、ゲノム上の遺伝子はイカ類と非常に似た保守的な並びを示しており、これはコウモリダコが深海生物の進化の重要な一端を担っていることを物語っています。
深海生物学への影響
コウモリダコは暗色の体と大きな瞳、独特の採餌法を持つことで知られ、特にマリンスノーを食べるために伸縮自在のフィラメントを用いるその方法は他のタコには見られない特徴です。これらの特性は、深海という過酷な環境に適応した生物の生態的な工夫を反映しています。
さらに、コウモリダコは一度に多くの卵を産むのではなく、育成環境に応じて反復産卵を行うことが知られています。これは資源を限られた深海で効率的に使うための戦略と考えられています。
今後の展望
今後は、コウモリダコのゲノム解析を基礎に、低代謝や繁殖戦略に関するさらなる研究が進められることでしょう。また、深海の生態系の理解を深めるためにも、地域の研究資源がますます重要になると考えられます。和歌山高専の新たな研究成果は、私たちが知らなかった深海生物の進化の解明に向けた大きな一歩となることでしょう。こうした成果は、今後の生物学や環境研究においても多くの知見を提供してくれると期待されています。